剣道に、流派はないの?

時代劇などを見ていると、柳生新陰流とか、北辰一刀流といった流派の名前が出てきます。
それぞれに何かしらの奥義があり、何やらすごそうな感じがしますが、剣道にも、このような流派が存在しているのでしょうか?


1.剣道は「超流派」

「剣道」には、昔ながらの流派というものはありません。本雑学コーナーの「剣道の起源や歴史は?」で詳しく紹介したように、現在の剣道の基礎は、明治時代に武道振興のために設立された「大日本武徳会」により築かれました。

大日本武徳会は、流派を超えた剣術の統合組織として毎年の大演武会の開催、各府県支部の設立、剣道称号(範士・教士・錬士)の制定および授与、武道専門学校の設立などを行いましたが、特筆されるのは、

・1899年(明治32年)試合審判規定の制定

現在の3本制の試合形式はこの規定により確立しています。

・1912年(大正元年)大日本帝国剣道形(のちの日本剣道形)の制定

全国から選抜された25名の剣道家による約1年間の議論を経て決定されたとのことです。

・1919年(大正8年)「剣術」「撃剣」などの名称を「剣道」に統一

といった活動です。

これらの活動は、警察における剣術の奨励や、明治40年(1907年)に剣道が中等学校正課の体操の一部として実施されるようになったことと密接に関係しています。即ち、体系化することによって、それを習う全ての人にとって基礎を学びやすくするといった目的がありました。

たとえば大日本帝国剣道形は、中等学校剣道教育を主目的に、各流派の良い点を取り入れたり、折り合いをつけたりして剣道の基礎指導のために作り上げたものです。礼法や試合審判規則等々も流派を超えて取り決めを行っています。

従い、この指導要領に沿って行われることとなった剣道は、いわば「無流派」であり「超流派」なわけです。

ちなみに、現代剣道に大きな影響を与え、母体となった流派は、北辰一刀流、直心影流、神道無念流の三つと言われています。


2.現在でも剣術の「流派」は多く存在

大日本武徳会は上記のように流派を超えた活動をしていたわけですが、それはあくまで武道の振興・教育・顕彰が目的で、流派統一を目指していたわけではありません。

上記の活動によって作成した統一の指導要領、統一の試合規則などは、全日本剣道連盟が継承し、今や全国に浸透しています。ほぼ全ての道場や警察、学校、剣友会はそれを元に指導を行っており、流派の存在が通常では見えにくくなっているのは事実です。

しかし剣術の流派は、今でも厳然と存在します。特に江戸時代から続くような古くからの道場は、何かしらの流派を継承しています.

我々がよく耳にする流派を少し挙げてみましょう。

■「兵法三大源流」

念(ねん)流、神道(しんとう)流、陰(かげ)流の3つの剣術流儀を指します。日本の剣術の源流を辿っていくと、この3流派に行き着くと言われています。いずれも室町時代初期から中期に創始されたようです。

■中条(ちゅうじょう)流

室町時代初期に創始された流儀で、長い歴史を持っています。念流からの派生と言われていますが、歴史も古いことから、念流、神道流、陰流に中条流を加えて「兵法四大源流」と言うこともあります。

■一刀流

戦国時代末期に念流系の鐘捲(かねまき)流の流れを汲む伊藤一刀斎が創始した流派です。弟子の小野忠明が徳川将軍家の剣術指南役になったことから、この流派は隆盛したと伝えられます。江戸末期に千葉周作成政が創始した北辰一刀流は、派生流派として特に有名です。

■新陰流

陰流から派生した流派で、戦国時代に創始されたものです。創始者である上泉信綱から柳生宗厳(むねよし)が宗家を引き継いで以降、「柳生新陰流」という俗称で呼ばれています。これは、上泉信綱の弟子達による派生流派との区別のためのようです。

■二天一流

宮本武蔵が晩年に完成させた二刀流の流派です。その理念は著書『五輪書』に記されています。

■示現流

薩摩藩を中心に伝わった神道流系の古流剣術です。初太刀に勝負の全てを掛けて斬りつける「先手必勝」の鋭い斬撃が特徴と言われます。

■直心影流

新陰流系の流派です。直真影流とも書きます。江戸時代にいち早く竹刀と防具を使用した打ち込み稽古を導入したことで知られ、江戸時代後期には全国に最も広まりました。幕末の剣豪・島田虎之助や勝海舟もこの流派の門人です。

■神道無念流

陰流系の新神陰一円流から派生した流派です。幕末期には、竹刀打込剣術流派としては直心影流に次いで全国に広まりました。

■天然理心流

神道流系の流れを汲む一羽(いちは)流から派生した流派で、江戸時代後期に剣客近藤内蔵之助が創始しました。新撰組の近藤勇(四代目当主)や沖田総司、土方歳三らがその使い手として知られます。現在も近藤家が伝承しています。

 

3.各流派の剣術には、剣の理法に通じるヒントがある

現代剣道は、いわば「無流派」であり「超流派」です。また、その成立過程でそれぞれの剣術流派の「いいとこ取り」もしてきています。

しかし剣道は「いいとこ取り」であるがために、最大公約数のようなものとも言えます。古くから伝わる剣術奥義は、それぞれの流派の教えの中にたくさんあるはずです。
実際、宮本武蔵の「五輪書」や、北辰一刀流の創始者・千葉周作成政の「剣法秘訣」といったものを読むと、なるほどと思うことがたくさん書かれており、いい勉強になります。

それを理解し、実践するのは難しいことですが、知っていて損なはずはありません。

剣道には「理業一致」という言葉があります。先人達の教えから剣の理法や剣の奥義を理解し、それを実践できるように稽古を積む。そうすることで、より一層剣道が楽しく、面白くなるのではないでしょうか?

Share
         Copyright © 若竹剣友会 - 剣道 - 千葉県我孫子市 - Do you 剣道?